2022年11月25日
不妊治療の現状と成功率 | 成功へ導くためのポイントとは
不妊治療を受けたことがある夫婦、生殖補助医療で誕生する子どもが年々増加しているのをご存知でしょうか。厚生労働省の発表によると2019年の出生数は、1899年に統計を開始して以来、過去最少の86万4千人でした。そんな現代の不妊治療の現状と成功率について、成功へ導くためのポイントとともに解説します。
不妊治療の現状
日本産科婦人科学会の調査によると、2018年には全国592施設、合計454,893周期の体外受精が行われ、胚移植1回あたりの妊娠率は31.9%だったそうです。体外受精で生まれた子どもは56,979人、つまり16人に1人が体外受精で生まれているということになります。
その5年前の2013年は体外受精で生まれたこどもは24人に1人の割合であったことと比較すると、体外受精で生まれる子供の割合はかなり増えています。
不妊治療の成功率は35歳を境に低下する
体外受精の成功率 |
成功率 |
|
25歳~29歳 体外受精の成功率 |
約40%以上 |
年代別に見ても、もっとも成功率が高い |
30歳~34歳 体外受精の成功率 |
約35%~40% |
20代と比べると、多少確率が下がる |
35歳~39歳 体外受精の成功率 |
約25%~30% |
35歳を過ぎたあたりから卵子・精子の質が急激に下がる 妊娠率もそれに伴って低下する |
40歳~44歳 体外受精の成功率 |
約10%~20% |
この年代では卵子の採取が困難 |
妊娠のタイムリミットはある?
女性の年齢とともに妊娠率、着床率、出産の確率は低下し、流産率は増加するのです。そのため、成功率が高い時期に採卵を行うのがベストです。
妊活の開始が早いほど、赤ちゃんを家に連れて帰れる確率が高くなります。不妊治療は、赤ちゃんが欲しいと思ったら、即行動なのです。
年齢とともに成功率が下がる理由
女性の妊娠に適した時期というのは、卵子の質が正常で、卵子の量が充分あり、ホルモンバランスがよく、卵巣機能が正常な期間、つまり25歳〜35歳前後であるといわれています。なぜ年齢とともに妊娠しづらくなってしまうのでしょうか。
それには「卵子の質の低下」「卵子の数の減少」が関係しています。
卵子の質の低下
不妊と年齢の関係性を表すとき「卵子の質」という言葉をよく聞くでしょう。
全ての細胞は、時と共に老化すると、細胞質のミトコンドリアが減少しエネルギー活動を終えて細胞は消失していきます。卵子以外の細胞は細胞分裂によって新しい細胞に入れ替わりますが、女性は一生分の卵子を持って生まれており、生まれてから卵子が増えることはありません。
体の中で最も古い細胞である卵子が、排卵や採卵をした後、精子と受精します。若い卵子の場合、減数分裂は正常に行われる確率が高く、染色体本数が正常な受精卵が発生しやすくなります。
しかし、老化した卵子の場合、その減数分裂の時に染色体分離がうまくいかず染色体本数が異常な受精卵が発生する可能性が高くなるのです。
卵子の数の減少
年齢を重ねるとともに、卵子も年をとり、数も減ります。
女性が一生で排卵させることができる卵子の数は約400個です。
胎生の20週で、将来卵子になる細胞である始原生殖細胞は700万個ありますが、赤ちゃんとして生まれてくる出生時には200万個まで減少、月経が開始する思春期には20万個まで減少します。
妊娠適齢期は全ての人に共通するもの。そのため、早いうちから夫婦で相談し適切な時期に検査や治療をはじめられるようにしておくことが大切といえるのです。
精子の老化
受精までの過程としては、女性側では卵巣内の卵胞が発育した後に、卵子として卵管に排卵し、男性側では精巣から精子が作られ、性交したときに射精して精子が卵管内へ入ることで、卵子と精子が出会い受精する一連の流れがあります。
この過程で男女いずれかに原因があると考えられますが、WHOの1996年の報告によると、女性に原因が41%、男性が24%、夫婦両方が24%、原因不明が11%であったとのことです。
不妊の原因は女性にあるイメージでしたが、原因の約半数が男性にもあるというのは意外ではないでしょうか。
【医療機関】不妊治療を成功へ導くためのポイント
妊活というと女性側が主体的に行うと思われがちですが、卵子と精子が受精しあうためには、男性女性療法が不妊治療にあたることが大切です。質のいい卵子や精子を作るために、いい体づくりは不妊症の治療においては必修。「いい受精卵を得る」ことが、自然周期法で妊娠率を高める大きな鍵になります。
ここでは、医療機関で行う不妊治療を成功へ導くためのポイントを紹介します。
妊活を開始するタイミングを見極める
社会的には結婚は20歳前後ぐらいからとして35歳までの15年間ぐらいが妊娠適齢期で、長いとは言えません。30歳と50歳では卵子の質が違うのです。
何人赤ちゃんが欲しいかをカップルで考えることを、ファミリープランニングと言います。
2人、3人と赤ちゃんを希望している場合には、若いうちに体外受精を行って、胚を複数個凍結しておけば、二人目以降の赤ちゃんを希望する時に使用することもできます。
早めの検査
不妊症の原因は女性と男性どちらにも考えられ、その割合は半々。男女ともに将来子どもを望む可能性がある方は、夫婦両方の早めの検査をおすすめします。
ひとつの目安として、10回体外受精を受けても妊娠しなければ、その後も成功率が低いという考え方があります。
1998~2010年まで11429人の体外受精をおこなった女性を対象に調査したデータがあります。治療開始年齢の平均は33.5歳、そのうち妊娠率は40.9%、出生率は3.01%、流産率は26.3%でした。
このデータから考えると、妊娠するまでの期間は平均で8.1回の体外受精が必要ということです。回数を重ねれば必ずしも妊娠できるとはいえないため、この回数に達する前に夫婦でどのような治療法を選択すべきか話し合うべきでしょう。
治療のステップアップ
妊娠する可能性は年齢とともに下がっていきます。自身の年齢と治療の成功率、そして将来の人生設計を鑑みながら、適切な時期に治療をステップアップしていくことが大切です。
不妊治療には下記の方法があります。
1,排卵日を診断して性交のタイミングを合わせる「タイミング法」
2,内服薬や注射薬で卵巣を刺激して排卵を起こさせる「排卵誘発法」
3,精子を子宮内に直接注入する「人工授精」
4,卵子と精子を取り出して体の外で受精 卵にしてから子宮内に戻す「体外受精」
5,受精が起こりにくい場合には、一つずつの卵子と精子を用いて「顕微授精」
妊娠の結果が出ない場合は、早めにクリニックに相談して、あなたにとって最善の「妊娠するための方法」を選択しましょう。
受精卵の凍結保存
年齢上昇に伴って発生する卵子の質の低下、量の低下を医療で止めることは医療ではできません。「今はまだ出産を希望していないけどなるべく自然な方法で授かりたい」という方は、来るべき時のために受精卵を凍結保存しておくことも一つの手です。
若い卵子を精子と受精させ、最も妊娠に近い「胚盤胞」という状態で温存しておくことができれば、体外受精を行うことで妊娠の成功率を高めることができます。
医療機関の治療方針が自分に合うかチェック
各施設ごとの掲げる治療方針が自分に合うかどうかも重要です。治療方針は各施設の説明会に参加したり、ホームぺージなどで知ることができます。実際に治療を受けた方の口コミをチェックすることも有効でしょう。
【生活習慣】不妊治療を成功へ導くためのポイント
不妊治療をメインとし、さらに生活習慣を見直すことで妊娠の可能性を高めることが可能です。自身の食生活・運動・睡眠などのライフスタイルを見直し、健康で妊娠しやすい体づくり を目指しましょう。
ここでは、不妊治療を成功へ導くためのポイントとして下記の4つを紹介します。
- 身体を冷やさない
- 体重をコントロールする
- 規則正しい睡眠を取る
- サプリメントや医薬品でいい身体を作る
それぞれ詳しく見ていきましょう。
身体を冷やさない
血行が悪いと卵巣に酸素や栄養が十分に届かず、卵巣機能の低下を招くので、冷え性は妊娠しやすい体づくりの大敵です。
また、冷えは妊娠した後の胎児にも悪影響を及ぼすため、早めに改善することが大切です。身体を温めることで子宮や卵巣の機能は高まりますよ。
- 生野菜よりも温野菜にして食べる
- あたたかい飲み物を飲む
- ごぼう、黒ゴマ、山芋、しょうがなど黒い色の食材をとる
- ぬるま湯の半身浴で30分以上ゆったりお湯につかる
また、基礎体温を測ることにより、月経周期や排卵など、女性ホルモンの動きをチェックすることが出来ます。基礎体温のパターンを知ることで、自分の健康状態を把握することにも役立ちますよ。
体重をコントロールする
女性の不妊原因の12%は、肥満または低体重と関連していると言われていることをご存知でしょうか。
痩せすぎの場合、女性ホルモンの分泌量が少なくなります。逆に太り過ぎの場合は、女性ホルモンの分泌量は増えますが、体重に対してホルモンの量が追いつかないため、こちらもホルモンバランスが崩れる要因となるのです。
身長に見合った理想的な体重かどうかは、体格指数(BMI)でわかります。体重(kg)を身長(m)の2乗で割って計算してみてください。
日本肥満学会では、BMIが25以上の場合を「肥満」、18.5以下の場合を「低体重」としています。つまり、妊娠に適したBMIは20〜24ということです。
乱れた食生活では栄養バランスも乱れ、不健康な身体になってしまいます。忙しいからと食事を抜いたりせず、毎日なるべく同じ時間にバランスの良い食事を摂るように心がけましょう。脂肪分が多く含まれる揚げ物や洋菓子などを控え、カリウムが多い食品(スイカ、ジャガイモなど)を積極的に食生活に取り入れましょう。
規則正しい睡眠を取る
自律神経と性ホルモンの中枢はともに視床下部にあることから、互いに影響を受けやすいため、過度なストレスを受けると、自律神経が乱れてホルモンの分泌が減少し、妊娠しにくくなります。
それによる不眠で、女性の場合は排卵が抑制され、男子の場合は造精機能が低下するとの報告があります。5時間以下の睡眠では血中コルチゾールが上昇し体内で炎症が起きて4~5年に相当する老化を引き起こします。反対に8時間を超える睡眠も細胞変化を起こすため7 時間睡眠が適切と言えます。
また、暗くなると脳の松果体から分泌されて眠気を誘うホルモン「メラトニン」はビタミン類よりも強力な抗酸化作用を持っています。メラトニンをたっぷり放出させるには、22時に就寝が理想的です。部屋の明かりは真っ暗にして、就寝前2時間くらいは、テレビやPC、スマホなど、明るいものを凝視することは控えましょう。
適度に体を動かし、十分な休養をとるとともに、生活を楽しむ気持ちを大切にしてくださいね。
サプリメントや医薬品でいい身体を作る
妊娠中は、必要な栄養素が最も増える期間です。アルコールや、リステリア菌を含むおそれのある食品(ソフトチーズ、加工肉、調理済みのサラダ、生卵など)、水銀含有レベルの高い魚は、妊娠に悪影響を及ぼす可能性があります。
妊娠を考えたら、まずは「葉酸」をサプリメントで摂取しましょう。
【妊娠に特に必要な栄養素】
たんぱく質、ビタミンA,B,E、鉄、亜鉛、カルシウム、コレステロール
排卵が起こらない「体重減少性無月経」になる可能性もあるため、バランスのとれた食事を心がける必要があります。しかし、妊娠に必要な栄養素を食事だけで十分に摂取することは難しいのが現状です。
参考文献:定 真理子 : 赤ちゃんがほしい人のための栄養レシピ
知っておきたい妊娠するための体づくり栄養素 池田書店 2012:10-4
まとめ
体外受精の技術の進歩により妊娠率が上昇しています。とはいえ、やはり年齢を重ねるとともにその確率は低下していきます。
不妊治療は、女性だけの問題ではなく、夫婦で取り組む必要があります。できそうなことから1つずつ取り入れてみましょう。体外受精をご希望される場合、あるいは検討している段階でも問題ありませんので、お早めに専門医に相談してくださいね。