2016年6月23日
黄体機能不全に効果がある「漢方薬」と「鍼灸」
「黄体機能不全に効果のある漢方薬や鍼灸を教えてください。」
という質問にお答えします。
黄体機能不全とは、排卵から月経までの期間を黄体期(高温期)といい、この時期に分泌される黄体ホルモンの量が少ない状態を黄体機能不全といいます。
黄体ホルモンのおかげで女性の身体は基礎体温が高くなり、子宮内膜も厚くなって妊娠しやすい身体になります。
しかし、黄体がうまく機能せずに黄体ホルモンの分泌量が減少すると、女性の身体は正常な生理周期を生み出せずに、子宮内膜に受精卵を着床するための準備もできなくなってしまいます。
黄体機能不全では下記のような基準で診断されます。
・基礎体温の高温期が10日以内(正常は14日)
・低温相から高温相への移行に3日以上要する
・高温期と低温期の差があまりない(0.3℃以内)
・高温期の途中で低温相に陥落してしまう
・黄体期中期の血中プロゲステロン値が10ng/ml未満
黄体機能不全の原因ははっきりしたことはわかっていませんが、大きく3つの要因が考えられています。
② 黄体ホルモンに対する子宮内膜の感受性の悪さです。黄体ホルモンが分泌されると子宮内膜は分厚くなるのが普通ですが、子宮内膜の感受性が悪いと、黄体ホルモンが正常に分泌されていても、正常に反応せず、分厚くならないのです。
③ 卵胞発育不全、高プロラクチン血症や多嚢胞性卵巣症候群などの疾患です。これらがあるとホルモンの分泌が妨げられてしまうのです。
東洋医学からみて黄体機能不全の原因は以下のものがあると考えています。
1 腎陽虚(じんようきょ)
2 肝うつ(かんうつ)
3 瘀血(おけつ)
4 肝虚(かんきょ)
5 腎陰虚(じんいんきょ)
1つずつみていきましょう。
腎は発育という観点から細胞の増殖に関わります。そして、卵胞などのように、盛んに分裂増殖を繰り返す生殖細胞も「腎」のつかさどる領域と考えているのです。ですから、黄体になる前の卵胞を成熟させるのも「腎」の働きといえます。この「腎」の働きが弱くなると卵胞の発育不全になり、結果、黄体にも力が無く、黄体から出るホルモンの分泌減少につながっていると考えています。
【このケースの特徴的な症状】
足腰の冷え、月経血が少量、足腰だるい、夜間尿、めまい、耳鳴り
肝は全身の気をスムーズにめぐらせる働きがあります。妊活が上手くいかないストレスが続くと、肝の働きが失調し気が滞ってしまい、FSHやLHなどの内分泌異常がおこります。その結果卵胞の発育不全につながり、黄体機能不全を引き起こしてしまいます。
【このケースの特徴的な症状】
月経前のイライラや落ち込み、胸の張りや痛み、脇の痛み、月経不順(周期がバラバラ)、熟睡できない
ホルモン剤の多用や暴飲暴食、運動不足などで血のめぐりが悪いと瘀血(おけつ)という血の滞った状態になります。必要な栄養素が届きにくいので、卵胞の発育不全につながり、黄体機能不全を引き起こします。
【このケースの特徴的な症状】
月経時の刺すようなきつい痛み、経血にレバー状の塊、便秘気味、子宮内膜症や筋腫がある、おへそ周りや下腹部の圧痛
血は卵巣や子宮にといった生殖機能を含めた身体全体に栄養と潤いを与えます。その血が不足すると卵巣に十分な栄養がいきわたらずに、卵胞の発育不全になり、黄体機能不全を引き起こします。
【このケースの特徴的な症状】
月経周期が長い、月経血が少量、皮膚につやがない、くちびるに赤みがない、爪がもろく割れやすい、目がかすむ、動悸、不安、夢が多い、足がよくつる
睡眠不足や過労、精神の酷使など身体に過酷な状況を続けていると腎陰が消耗します。腎陰が不足すると卵胞の材料となる基の不足とうるおいの不足で熱が生じ、卵胞の発育不全が起こり、黄体機能不全を引き起こします。
【このケースの特徴的な症状】
低温相の体温が高め、皮ふやくちびるの乾燥、のどの渇き、手足のほてり、のぼせ、痩せてくる、不眠、頭痛、動悸

1 腎陽虚を改善する漢方薬としては、以下のようなものがあります
腎陽を補う基本的な処方で、不妊治療の現場でアンチエイジングとしても使われています。
・牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
八味地黄丸に足のむくみが顕著な方に。
・参茸大補丸錠(さんじょうだいほがんじょう)
動物生薬を使用して腎精を増やし、強力に腎の働きを高めますのでオススメです。
2 肝うつを改善する漢方薬としては、以下のようなものがあります。
気の流れを整える基本的な処方です。
・加味逍遙散(かみしょうようさん)
気が滞りイライラしやすく熱っぽい症状があれば。
・抑肝散(よくかんさん)
月経前に興奮してふるえやひきつりが生じる、小さなことにこだわる傾向が強い、物音ですぐに目が覚めるなど。ストレスの発散ができす神経が高ぶるタイプの方に。
3 瘀血(おけつ)を改善する漢方薬としては、以下のようなものがあります。
血のめぐりをよくする基本的な処方です。
・芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついん)
疲れやすくて、イライラして、手足が冷える方。気や血を補いめぐらせる、使いやすい処方です。
・桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
血のめぐりが悪く、のぼせて便秘症の方に。
血虚に瘀血を兼ねる方剤。主婦湿疹、足腰の冷え、手足がほてり、唇がかわく方に。黄体機能不全では良くつかわれているオススメの処方です。
・婦人宝(ふじんほう)
飲みやすいシロップ剤です。血を補いめぐりを良くすることで、冷え性、肩こり、貧血、めまいなどを改善します。
・当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
血虚があるところに冷えが手足に入り、下腹部が痛んだり、しもやけになるような方に。
腎陰を補う基本的な処方です。
・杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)
腎陰を補う基本的六味丸にプラスで肝陰も補う処方で、目のかすみ・乾燥・充血などの症状がある方に。
・黄連阿膠等(おうれんあきょうとう)
冷えやすくのぼせ気味で胸が苦しく、不眠傾向のある方に。
鍼灸では腎陽虚証、腎陰虚証、脾虚腎虚証、脾虚肝実証、肝虚陽虚証、肝虚陰虚証などが考えられ、
各証により施術法は変わってきます。
特に「腎虚陽虚証」ですと脾も虚していることが多く、「脾虚腎虚証」で施術することで、腎がしっかりしてきます。


病院では同じ病名がついても、各々の体質や自覚症状も違いますから、東洋医学では、漢方薬処方や鍼灸の施術法が全く変わってきます。
ですので、東洋医学の専門家に診たててもらう必要があります。
黄体機能不全では、漢方薬や鍼灸の力で体質を改善することで、子宮内膜の発育異常や着床障害、妊娠維持の障害といった不妊の原因に対応することができます。
